世界五大猛毒その5〜グラミシジン〜
いよいよ今回で最後になりました、世界五大猛毒シリーズ。ラストはグラミシジン(gramicidin)です。
これは、土の中に生息する細菌(土壌細菌)の中の、「バシラス(バチルス)」と言うグループ(属)に分類される細菌が生産します。
バシラスは、酸素のあるところで繁殖し、細長い棒状をした細菌です(こういう細菌を、好気性桿菌(こうきせいかんきん)と言います)。
そして、グラミシジンは、「ペプチド系抗生物質」と呼ばれています。
「ペプチド」とは、数個のアミノ酸が、「ペプチド結合」と呼ばれる結合によって結びついた物を言い、
「ペプチド系抗生物質」とは、ペプチドを含む(あるいは、全てペプチド)の抗生物質を言います。
ペプチド結合とは、結合部分が「−CONH−」と言う形になっている結合…
つまり、2つのアミノ酸が、炭素、酸素、窒素、水素を接着剤としてくっ付いている物を、「ペプチド結合」と呼ぶのです。
ところで、「抗生物質」と言う言葉は、よく薬の名前で耳にしますが、そもそも抗生物質とはなんなのでしょう。
抗生物質とは本来、自然界に存在しているもので、1941年、セルマン・アブラハム・ワックスマンと言う生物学者が発見しました。
彼の定義によると、抗生物質とは、
「微生物や他の生物により生産され、微生物の生育を阻止あるいは殺す活性を有する化合物」
早い話、「自然が生んだ、微生物を殺す化学兵器」です。
何か重い病気にかかった場合、抗生物質を飲むのは、抗生物質によって、病原菌を殺すためなのです。
グラミシジンも、そんな抗生物質のひとつ。
グラミシジンにはいくつか種類があり、それぞれグラミシジンA、B、C、D、Sと名付けられています。
A、B、Cは、アミノ酸が真っ直ぐ連なった物で、DはA、B、Cの混合物。
そしてSは、アミノ酸が円状(環状、と言います)に連なった物です。
致死量は、グラミシジンSで、体重1kg辺りたったの17mg(体重60kgなら約1g)です
(この値は、ラットに腹腔注射(肝臓や胃があるところに注射する事)した時の値)。
では、グラミシジンを摂取してしまうと、どうなるのでしょうか。
グラミシジンは体内に入ると、体を構成する細胞を覆っている、細胞膜を変質させてしまいます。
どう変質させるのかと言うと、イオンと言う物が、細胞膜を通過できるようにしてしまうのです(これを、「チャンネルを形成する」と言います)。
イオンとは、物体を構成する「原子」と言う物が、プラスの電気を帯びたり、マイナスの電気を帯びたりした状態の事で、
この時通過してしまうイオンは、水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどです。
これらのイオンが通過すると、何故死んでしまうのでしょうか?
人間の体の中には神経が通っていて、神経が脳からの情報を体中の筋肉に伝達します。
普段は神経細胞の内部にはカリウムイオンが多く、神経細胞の外にはナトリウムイオンが多くなっています。
この状態では、細胞の内側が、外に比べて「マイナス」の状態になっています。
そして脳からの情報を伝える時は、内側にナトリウムイオンをどんどん取り入れていきます。
すると、今度は細胞内が「プラス」の状態に変わり、こうする事で、脳からの情報を伝えているのです。
ところが、ナトリウムイオンやカリウムイオンを素通りさせてしまうと、「ゼロ」の状態になってしまいます。
したがって、脳からの情報が筋肉に伝えられなくなってしまい、心臓や肺が止まって死んでしまうのです。
また、グラミシジンは、細胞内にあるRNAと言う物を作れなくしてしまいます。
RNAとは、体を構成するたんぱく質を作る上で非常に重要な役割を担っているものです。
細胞内には「DNA」と言う物がありますが、あそこにはたんぱく質の「作り方」が書いてあり、
「リボゾーム(リボソーム)」と言うところが、実際にたんぱく質を作ります。
そのDNAからリボゾームまで、たんぱく質の「作り方」を運ぶのが、RNA(正確にはrRNA)。
RNAにはたくさんの種類があるのですが、これらはどれも生物にとって重要な物。
グラミシジンは、このRNAを作らせないため、生命活動を維持できなくなり、死んでしまうのです。
ちなみに、今回出てきたバシラス属は、炭疸菌(たんそきん)やセレウス菌、枯草菌やバシラス・ステアロサーモフィラスなど34菌種を含みます。
炭疸菌は、2001年に起こったアメリカ同時多発テロ時、生物テロに利用されました。
セレウス菌は、土壌以外にも、水中、空中、植物表面、ヒトも含んだ動物の排泄物中など、あらゆる所に存在します。
普通にしてれば害はありませんが、食品に付着した菌が増殖すると、食中毒として、急性胃腸炎を起こす場合があります。
セレウス菌による食中毒は、下痢や腹痛を引き起こす「下痢型食中毒」と、吐き気、嘔吐、下痢を引きこす「嘔吐型食中毒」の2種類に大きく分けられます。
下痢型の潜伏期間は8〜22時間、嘔吐型は1〜5時間です。
下痢型は腸内でセレウス菌が増殖して引き起こされるため期間が長く、
嘔吐型は食品中で増殖した場合に引き起こされるため、食べた時には既に毒素があり、期間が短いのです。
下痢型は肉やスープ、野菜の煮物、プリン、ソースなどが原因となり、嘔吐型は焼き飯、ピラフ、めん類、オムライスなどが原因となります。
なお、炭疸菌と人間との付き合いは長く、1876年からの付き合い。
この年、ロベルト・コッホによって、「病気は細菌によって引き起こされる」と言う事が、炭疸菌(炭疸症)によって初めて証明されました。
参考文献;食中毒原因物質【http://www.ikagaku.co.jp/bac/bac.html】(株式会社いかがく【http://www.ikagaku.co.jp/index.html】内)
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